■名作列伝013

超電磁劇団ラニョミリINTERNATIONAL・第13回公演

気狂い六子にヒカルノキミを

 

日時:2009年9月11・12・13日

場所:相鉄本多劇場

 


それは、突然に起こった。


夕刻のマンションで突然停止したエレベーター。乗り合わせたのは4人の女性。彼女たちは非常用ベルを押して救助を呼ぶものの、救助が来る気配はなく、不安ばかりが募っていった。

不安を紛らわすために女性の一人‐葵が世間話を持ちかけた。「嘘でもいいから」と言われて、何となく会話に応じたのは夕子と名乗る女性。しかし、不安を紛らわせるはずの世間話も最終的には「救助が来ない」という話題になってしまい余計に不安が募る結果に。その様子を見かねて、もう一人の女性‐朝実が会話に加わってきた。朝実はダンサー、夕子は歌手志望、葵は看護師…。それぞれ嘘か本当かわからない身の上を語りだし、どうにか会話が弾み始める。

そこに、我関せずという態度でヘッドホンで音楽を聴いていた最後の女性が口を挟んだ。明らかに他の3人より一回りは年上と思われるその女性は、夕子の提げていた買い物袋の中のアイスが溶けてたれ始めているからどうにかしろと言い出し、更にはキャバクラで働いているという朝実を「性を売ってる」といきなり非難し始めて一気に場の空気を険悪なものにしてしまった。半ば呆れながらも、とりあえず彼女に名前を尋ねる朝実。そして朝実のその問いかけに、彼女はこう答えるのだった。


「私は…六子。源氏物語の六条御息所の六と書いて六子」


六子が源氏物語を持ち出してきた意図がわからず戸惑う三人。と、その時、突然エレベーターが一瞬大きく揺れた。

一向にやってくる気配のない救助、そして原因不明の振動。更には空調まで止まってしまい、紛らわそうとしても不安は募るばかり。そんな状況の中、六子は葵が持っていたワインを皆で飲もうと提案しだした。自ら乾杯の音頭を取る六子。かくして、エレベーターの中での奇妙な宴会が始まった。

偶然にも、恋人を訪ねてこのマンションに来たという四人。宴会の話題は必然的にその恋人の話となった。夕子、葵…と、それぞれ出会いのきっかけや恋人の魅力を語りだす。彼女たちの話を聞いていた六子は、何かを諦めるかのように呟くのだった。


「初めからわかっていたのよ」


実は、彼女たちの恋人は同一人物だったのだ。いきなり明かされた衝撃の事実を認めることができない三人。そんな彼女たちに六子が静かに詰め寄る。「女ってね、女でなくなるときが来るの、必ず」。六子のその鬼気迫る様子におののく三人。更に追い討ちをかけるように、六子の懐からナイフが落下した。ナイフを手に取り、「執着を断ち切るために来たのよ」と六子が三人に迫る。もはや絶体絶命かと思われたその瞬間、エレベーターの照明が消えて真っ暗になってしまった。暗闇の中で身動きもとれず、一時休戦状態の四人。しかし、それも長くは続かなかった。突然轟音と共にエレベーターが落下を開始、更に煙の匂いが…。それぞれが壁を叩き、必死に外へ訴える中、六子だけが不気味に笑っていた。


「本当なら私が彼を殺して彼を解放してあげようと思ってきたのに」

再びナイフを手に葵に迫る六子。「葵、葵、葵の上…」。物語と現実の境目が見えなくなった六子の姿はもはや狂気に取り付かれているとしか言いようがないものだった。興奮のあまり六子はナイフを捨て、自らの手で葵の首を締め上げる。それはまさに、源氏物語の中で、生霊と化して光源氏の正妻である葵の上をとり殺した六条御息所そのものだった…。


狂気と背中合わせの六子の想い。もはや殺意によってしか想いを断ち切ることはできないのか。そして4人の女性をめぐり合わせた男‐ヒカルの真意とは…。