劇団ラニョミリ 第18回公演
ケーフェイ。 ある女子プロレス物語
日時:2018年4月6日~8日
場所:ラゾーナ川崎プラザソル
女子プロレス大会会場の体育館。
その一室に設けられた選手控え室に一人の女性が男に連れられて入ってきた。
男はこの大会の営業を取り仕切るカドタ、そして女はかつての新日本女子プロレスのエース、
ザ・クール桂木である。
引退してから20年。桂木は久しぶりの控え室に懐かしさを感じつつも、複雑な思いを隠せないでいた。
本当は今日も花束だけを置いて帰ろうと思っていたのだが、
カドタに見つかってしまい断りきれずに促されるままに控え室まで来てしまったのだ。
そこへ後輩レスラーのスマイリー光子とビッグイーター大田原、新米レフェリーのクニサキが
試合を終えて戻ってきた。
憧れの桂木がついにリングに上がるのかと勝手に喜ぶ三人。
桂木は帰るタイミングを完全に逃してしまっていた。
盛り上がる一方の控え室。しかし、その盛り上がりもレフェリーのエガミの登場によって
一気に引き戻されてしまった。
「20年前、1997年。何があったんです?」
20年前、新日本女子プロレス大会、ザ・クール桂木対デンジャラス有明の試合。
桂木を看板レスラーとしていた新日本女子プロレスはこの試合での桂木の勝利をきっかけに
海外遠征に乗りだすことが決まっており、経営的にも大きな意味を持つ試合であった。
しかし桂木は敗北。そして突然の引退。
その後エースを失った団体は倒産。プロレスの枠組みを超えて全てが暗転した謎の敗北劇だったのだが、
関係者は全て口を閉ざし未だ真相は闇の中。
そしてその謎の敗北劇を仕切っていたのが、レフェリーであったエガミだったのだ。
長年抱えていた疑問をぶつけるクニサキ。
しかし次の試合の時間が迫っていたため、仕方なくクニサキは控え室を出て行った。
観客として観戦していた、かつてのレスラー仲間の安西が控え室に現れた。
ずっと桂木をライバル視しながらも勝つことができずにナンバー2の座に甘んじていた安西は、
桂木に対して挑発するかのような態度でこう言ったのだった。
「団体が解散することになった時、勝てると思ったんですよ。プロレスじゃなくてもいいんですよ、あたし」
引退して結婚、そして子供が生まれ、充実した毎日。プロレスというフェイクの世界を離れたリアルの世界で幸せに暮らす安西。
かたや桂木も引退後結婚して子供も生まれたものの、
こちらの暮らしのほうがむしろフェイクなんじゃないかという違和感を捨てきれず、
かといってプロレスの世界に戻ることもできずに今に至ってしまった。
そういう意味では、今まさに安西は勝者であり、桂木は敗者なのである。そして安西は、幸せな自分を見せ付けて桂木を見下すために今日この場に現れたと言うのである。
挑発する安西に対し、桂木は一通の手紙を取り出して突きつけた。
「新日本女子復活大会、20年前の忘れ物を取り戻しに、ある女が現れる」
戸惑う桂木。
そして、そのやり取りを見ていた大田原と光子が桂木にかつてのリングコスチュームを差し出し、
復帰を願い出たのだ。
団体が崩壊した後、また大会を開ける日を夢見てひたすら働いて資金をためてきた二人にとって、
憧れの桂木は今日という日において欠かせない存在だったのだ。
20年前のあの日、前座として桂木の試合を盛り上げた二人。
彼女たちにとってもあの試合は心に刺さったままの棘であり、「忘れ物」だったのだ。
そして、「忘れ物」を取り戻しに来たのは彼女たちだけではなかった。
会場に鳴り響く物々しい音楽-かつて桂木と戦ってきた悪役レスラー軍団・極悪地獄一門のテーマである。
桂木を出せと叫び会場で暴れまわる声が控え室まで聞こえてくる。
あの試合をやり直すかのような状況に戸惑う桂木。20年間フェイクとリアルの間で揺れ続けてきた想いの行方は。
そして、桂木が選ぶ未来は-。
撮影 駒ヶ嶺正人