■名作列伝020

劇団ラニョミリ 第20回公演

時間の遠くに燃える。

 

日時:2023年3月17日~19日

場所:ラゾーナ川崎プラザソル

 


人里離れた山中に建てられたある施設。ここに防護服に身を包んだ男女に連れられて一人の男がやってきた。男の名は桂木。彼は未知の感染症の無症候性キャリア―症状は消えたにもかかわらずウイルスを保持し続ける者としてこの施設に隔離収容されるために連れられてきたのだった。収容期間は…完治するまで。しかし特効薬が完成する見込みもなく、事実上それは「死ぬまで出ることができない」ということと同義であった。

施設内は衣食住が保証された快適な空間ではあったが、収容者たちはネットや電話などの外界と繋がる手段を絶たれ、完全に社会と隔絶された状態に置かれていた。そして施設の周囲には電流の流れる有刺鉄線、さらには収容者それぞれの腕には脱走すると爆発するというリストバンド。それでも運よく脱走に成功した場合は火炎放射器付きのドローンがやってきて脱走者を焼き殺すという…。快適な生活かもしれないが、それは大人しく収容されていればということであって、元の生活に戻りたい者たちにとってはいくら快適とは言えども、その暮らしは牢獄と変わらないものでしかないのだった。

 

施設には様々な入居者たちが生活していた。彼らもまた桂木と同じ感染者であり、死ぬまで施設に収容されることを運命づけられた者たちである。とは言え、収容中の生活については決まりはなく、収容者たちは思い思いの生活を送っていた。

 

衣食住が保証された自由な生活ではあったが、全員がそれで満足しているわけではなかった。不可能と分かっていながらも脱出の方法を話し合う者、全て諦めて人との接触を避ける者…収容者それぞれが心のどこかに暗いものを抱えながら日々を送っているのだった。

 

 

 

そしてある日事件が起こった。収容者の一人・郡山良子が有刺鉄線を乗り越えようとして感電死したのだ。彼女の部屋に残されていたのは白紙の手紙。これは彼女の遺書なのだろうか。脱走、それとも自殺…。彼女の死は収容者それぞれに大きな波紋を投げかけた。感染の恐怖に怯えることのないここでの生活を受け入れるべきだという者、こんな世界でも人間らしさを失わずに生きていこうという者、脱出を決意し有刺鉄線をかいくぐるためのトンネルを掘りだす者…。それぞれがそれぞれの形で生きていこうとしていた。

だが、それも長くは続かなかった。突然施設内に鳴り響いた警報音。それは施設を管理するAIと接続された端末から発せられたものだった。警報の内容は―非感染者の世界の消失。理由ははっきりしないものの、施設の外の人間が全て死亡してしまったというのだ。

非感染者の存在が無くなったことで、収容者たちが施設にいなければならない理由は消失した。しかし、彼らを施設に閉じ込めるシステムはAIによって稼働し続けたまま。

 

果たして自分たちはこれからどうして生きていけばいいのだろう。絶望と希望が混沌とする中、それぞれが選んだ未来とは―。


写真 菊池俊夫/駒ケ嶺正人